カスタマーサクセスマネジャーに求められる3つのコアコンピテンシーの概略
カスタマーサクセスという職能を磨くためには多種多様なスキルが必要とされている。プロダクトを提供するカテゴリーや業界の知識はもちろんのことながら、カスタマーとの関係構築や自己認識といったソフトスキルも必要とされる。ここに異論を挟む余地はないだろう。カスタマーサクセスという職能は組織横断的な性質を持っている以上、幅広いスキルが必要なのである。
しかし、その多種多様なスキルの中から具体的に何を磨けば良いのかを明文化しているケースが少ない。言い換えるならば「優秀と呼ばれるレベルと平凡なレベルにとどまるカスタマーサクセスには具体的にどのようなスキルの差異があるのか?」ということである。
筆者自身もカスタマーサクセスという職能に未経験から挑む立場である。だからこそ、優秀と呼ばれるレベルのカスタマーサクセスに求められるコアコンピテンシー(スキル)を参考文献をもとにまとめていく。また、そのコアコンピテンシーを身につけるための方法もまとめていく。
参考文献によると優秀と呼ばれるレベルに達するためには3つのコアコンピテンシーが必要であると記載されている。
1.知識レベルの高さ
2.課題解決能力
3.カスタマーとの関係構築能力
今回の記事では特に1.知識レベルの高さについてまとめていく。
「知識レベルの高さ」を構成する3つの要素
コアコンピテンシーの1つ目は「知識レベルの高さ」である。このスキルは何よりもまず必要とされるものである。しかし、「知識レベル」とはいうものの抽象度が高く、具体性がない。ここでは、「知識レベルの高さ」を構成している要素を3つ定めそれぞれの特徴を見ていく。下記の3つの要素が知識レベルを構成している。
1.カテゴリーの知識
カテゴリーとは「特定かつ既知の問題解決を生業とする企業の集合を含む業界の1セクター」を指す。
2.業界の知識
業界とは「事業体、ナレッジワーカー、プロダクト、サービスを内包する、経済の一部」を指す。つまり、カテゴリーを包括している概念である。
3.プロダクトの知識
プロダクトとは「自社がカスタママーに成果を出してもらうために提供しているモノやサービス」を指す。
知識レベルを高めるための2つの方法
知識レベルは1.カテゴリーの知識、2.業界の知識、3.プロダクトの知識の3つで構成される。ここからは、この知識レベルを高める方法に関してまとめていく。カテゴリーと業界の知識レベルの高め方とプロダクトの知識レベルの高め方はそれぞれ異なるため分けて記載していく。参考文献によると特にプロダクトの知識レベルを高めることが重要であると記載されている。下記にその該当箇所を引用する。
“最高のカスタマーサクセスマネジャーとしてチームのトップに立ちたいなら、プロダクトの知識は必須条件だ。業界経験や人間関係構築のスキルがあればカスタマーを成功に導けると考えているカスタマーサクセス担当者をこれまでに数限りなく見てきた。そうしたスキルの価値や重要性は言うまでもない。しかし成功したカスタマーサクセスマネジャーは、誰もがプロダクトに精通している。”
つまり、業界知識や対人コミュニケーションスキルは重要であるものの、欠かすことができないのは豊富なプロダクトの知識を用いてカスタマーに成果を届けることである。
では、まず最初に知識レベルを高めるための2つの方法を具体的に見ていく。
業界・カテゴリーの知識レベルを高めるためには「エキスパートとのネットワークを構築する」ことが効果的
まずは結論から。業界やカテゴリーの知識レベルは「その業界のプロフェッショナルをストーキングする」ことで高められる。
さらにもっと具体的な話をすると、自分が勤めている企業内、自分が所属するチーム、知識を高めなければいけない業界で最も優秀であると思われる人を探し徹底的にストーキングする。ここでいうストーキングというのは、物理的に付きまとうようなことではない。「常にストーキング対象の人物の行動に注目し、その人物がどのようにして情報を収集しているのか?どのようなことに興味関心をもっているのか?どのような発言をしているのか?などを徹底的に調べ上げること」である。X(Twitter)や個人ブログ、メディアに掲載されている記事などインターネット上の情報を収集することもできる。業界のプロフェッショナルにリアルで会うことは難しいため、まずはSNSをフォローするところから始めても良いだろう。
筆者自身、カスタマーサクセスの業務に従事して日が浅い。おそらくこの記事を読んでいる方の中にもそのような人がいるだろう。そのような人が抱える悩みはおそらく「誰をベンチマークすればよいのかわからない、、、」だろう。確かにそれぞれが属している業界によってベンチマーク先がわからない場合があるだろう。ここに関しては本を出している方やメディアに掲載されている方を見つけ出すところから始めてみてほしい。
一方で、カスタマーサクセスという職能に関しては業界問わずプロフェッショナルの情報を吸収することは重要だろう。
非常に参考になる動画をまずは紹介したいと思う。今回この記事を執筆する際の参考文献の翻訳を担当されている弘子ラザヴィさんのyoutubeチャンネルで4人のカスタマーサクセスのプロフェッショナルを紹介している回がある。これが非常に参考になる。
この動画に出ていらっしゃる方は下記の4名(動画投稿:2021/06/01時点)。
・Circle CI:是村潤さん
・beBit:磯野亘さん
・Repro:岩田健吾さん
・Cisco:小泉雅人さん
業界・カテゴリーの知識レベルを高めるために何をすればいいかわからない方は、まずこの方々をストーキングしてみるのはいかがだろうか!?
ここまでは、比較的取り組みやすい施策を紹介した。取り組みやすいということはメリットであるが、持続的に行えるかという点では少し不安が残る。
そんな場合はリアルで開催されるイベントやコミュニティに参加するのも1つの手だろう。筆者も早速2023年11月9日に開催されるsaasのイベントに参加する。
筆者はこのようなリアルなイベントに参加するのは初めて。参加後には改めて記事する予定なのでお楽しみに。
とにかく、業界やカテゴリーの知識レベルは「その業界のプロフェッショナルをストーキングする」ことで高められる。そしてそれは、ネット上でもリアルでもどちらでも方法はあるということである。
プロダクトの知識レベルを高めるためには「文献・現場の知識を収集する」ことが効果的
カスタマーカスタマーサクセスではカスタマーに成果を求められる。そして、その成果はほとんどの場合プロダクトを通して実現されるものである。しかし、プロダクトの知識というものは何もしないで身につくようなものではない。ここでは参考文献で紹介されている4つのプロダクトの知識レベルの高め方を紹介する。
手に入る文献を活用する
普段意識することは少ないかもしれないが、社内にはプロダクトの資料は大量にあるだろう。大抵の場合はカスタマー向けの動画を用意している。これを自分でも活用してみるところから始めよう。
これに加えて既存カスタマーの成功事例を収集し、横展開できる状態にしておこう。実はこれが想像以上に重要である。いくらプロダクトがすぐれていたとしてもカスタマーはプロダクトの提供側と比べて「成果が上がるまでの道のり」を理解することが難しい。情報の非対称性がそうさせている場合が多い。だからこそ、実際に成功した事例からプロダクトの活用方法を伝えるようにする。ただし、ただ「伝える」だけでは不十分。成功事例がどのようにして生まれたのかをその他のカスタマーにも横展開可能な形で資料に落とし込んでおくことも忘れてはならない。
カスタマーが増えるにつれ時間はどんどんなくなっていく。だからこそ、ある程度汎用的な成功事例紹介資料を作っておき、横展開がスムーズに行くように設計しておくべきなのである。最初は手間がかかるかもしれないが、横展開可能な成功事例が蓄積されればされるほどカスタマーにTime to Value(TtV)を実感してもらいやすくなる。
同僚から学ぶ
普段一緒に仕事をしている同僚がどのようにしてカスタマーにプロダクトを通して成功を届けているのかを知っているだろうか?共通の資料(動画やツール)を使用している場合も多いだろうが、そういった汎用的な資料では補いきれない部分に関しては各カスタマーサクセスが自ら資料を作ったり提案の仕方を工夫していたりするものである。だからこそ、まずは同僚の提案方法や資料を共有し合うところから始めてみることも良いだろう。
また、忘れてはいけないことはプロダクトチームとのコミュニケーションである。プロダクトチームは最前線のビジネスの世界とは距離が離れてしまいやすい。Voice of Customer(お客様の声)をプロダクトチームと共有していく必要がある。その中で新たなアイデアが生まれる可能性も十分にある。
これに関しては下記のメルカリのコラムがヒントになる。
社内の同僚から学ぶ(学び合う)ためにはどのような行動が必要かを考えてみよう。
営業デモンストレーションとピッチを練習する
カスタマーサクセスは営業に引けを取らないレベルでプロダクトを使いこなし、カスタマーに成果を届けるためのプロセスをわかりやすく伝えなければならない。実際に営業に同行してカスタマーとのやり取りをどのように行っているのかを見てみることは重要である。いわゆる現場主義である。前述したように社内に蓄積されている情報は価値のあるものである。ただし、資料にされているような情報はある程度の「加工」がされている。もっとわかりやすく言うと、料理動画には「別の食材を切る前に包丁を洗います」といった作業は説明されることはほぼない。つまり、情報が加工される際にはこぼれ落ちる情報があるということである。だからこそ、営業は何をしているのか?を直接見ることに意味がある。そこにはこれまで気づくことのできなかったヒントが大量に隠れているかもしれない。
ユーザーグループと面談する
プロダクトと一言に言ってもそれを利用するカスタマーの置かれている状況や求めている成果は多種多様である。カスタマーをセグメントし、置かれている状況や求めている成果をパターン化させることでより最適なアプローチを実行できる。その方法がユーザーグループとの面談なのである。プロダクト提供側からは思いもよらない活用方法や成功事例を得ることができる機会になるかもしれない。
まとめ
いかがだっただろうか?今回の記事のテーマはカスタマーサクセスに求められる3つのコアコンピテンシーの1つである「知識レベル」についてであった。知識レベルを構成する要素は1.カテゴリーの知識、2.業界の知識、3.プロダクトの知識の3つである。そして、それらを高めるための手段は、1.エキスパートとのネットワークを構築する、2.文献・現場の知識を収集する、であった。カスタマーに成果を届けるためには「知識」を付けることが重要であるということだ。
今回の記事は下記の参考文献をベースとして執筆している。気になる方は、ぜひ手に取っていただきたい。